「4枚小説」の書き方〜テキスト 『本当の敵』


「4枚小説」の書き方 丘辺 渉のビジュアル添削

ひとつの作品が「初稿」として生まれ、講師(丘辺)から添削を受けて、どのように変化・成長していったか、そのプロセスを具体的に紹介していきましょう。
また、テキストの作品を通して、「小説」ってどんなふうに書けば良いのか迷っている多くの方々に、ちょっとした“基本”をお伝えしていきますよ。

テキスト 『本当の敵』

①擬人法は、面白い。

初稿 4枚小説の書き方 before原稿 添削後は... 添削 4枚小説の書き方 after原稿

初稿の書き出しは、こうなっています。
「僕は、生まれたときから、この賄いつきの下宿屋で暮らしている」(初稿1~2行目)

読者は、この一文だけで、主人公の「僕」は、下宿しているから「人間」(例えば、学生)だと勝手にイメージするでしょう。
この時点で読者は、作者の仕掛けた罠に落ちたことになりますよ。

そして、61~62行目。
「パパ、この栗、穴があいてるよ」
「それは、虫が食っているんだ」

読者は、この「ネタばらし」で納得、感心させられます。
擬人法で書かれていて、「僕」が実は「虫」で、「下宿屋」とは「栗」のことだったんだ……。

ラストまで読み終えた読者は、必ず「ネタ」の確認をしたくなって、もう一度、作品を最初から読み返してみるでしょう。
そこで、作者の仕掛けた擬人法的表現を、いろいろと発見することが出来て、さらに作品の面白さを2回味わうことになります。これも、長さが「4枚」だから、ちょうどいいのですよ。

「4枚小説」において、擬人法の作品は、
「ひと粒で二度」美味しい。

では、キミが作者になった場合を考えてみてください。
この擬人法は、読者に罠を仕掛けるために、最もチャレンジしやすい手法です。

主人公が「人間」ではないのに、
まるで人間であるかのように描く。

「動物」や「植物」を主人公にできるのは勿論のこと、常識にとらわれず、「無生物」だって構いません。
「石ころ」や「消しゴム」が、人間のように喋ったら面白いですよね。
さらに、発想のスケールを大きくして、例えば「空」と「海」とが会話する話を書けば、立派な「童話」や「SF小説」になりますよ。

擬人法は、読んでも、書いても面白い。

②お互いの「キャラクター」を対照的に設定しよう。

今作品のテーマは、主人公の「僕」と相手役の「彼」との人間関係です。
そこで、お互いのキャラクターが大切になりますよ。

二人を対照的なキャラクターの設定にすることで
「ストーリー」が生まれていく。

「彼」の設定 → 「倍くらいの大きさがある、ぶよぶよした体つき」(初稿11~12行目)、「じゃまだ、出て行け」(同18行目)、「機嫌が悪いときに~脅した」(同25~27行目)

これに対して「僕」の設定→「チビ助」(同21~22行目)、「おそるおそる応えた」(同20行目)、「黙っていじめられていた」(同28行目)

以上の表現で、「彼=強者」×「僕=弱者」の構図になっているのがわかりますよね。

そんな「弱い僕」が、やがて次のような行動をとります。

「次第に体が大きくなり~言い返し、たまには体当たりをして逆襲を試みる日もあった」(同29~32行目)

ここに、「僕」の変化がストーリーとして描かれていますよ。

ただし、「たまには~もあった」という表現がやっぱり弱いので、ここは、もっとメリハリをつけてオーバーに強く書いたほうが良いですよ。

すると、作者トシオさんは最終決定原稿(ホームページ掲載の「定型」原稿)で、こんなふうに書き直してくれました。

「悔しくて仕方がなく、たくさん食べて運動し、体を大きくしようと頑張った」(定型27~28行目)
「彼がいじめにやってきたとき、彼より先に体当たりをくらわせ、強く言い返してやった」(同30~32行目)

どうでしょう。
「弱かった」主人公が、自分の意志で「強く」「逞しく」なっていますよね。
それだけ、ストーリー的に大きく、ハッキリと変化したことになります。

「ストーリー」にメリハリをつけるためには
「オーバー」に描いて構わない。

③「最も言いたいこと」は、くり返して描く。

作品全体を通して「言いたいこと」は、たった”ひとつ”です。

だからこそ、作者が本当に言いたいことは、文中で、自ずとくり返して表現することになりますよ。

ところが、今作品の初稿では、タイトルの「本当の敵」という言葉が、本文中に一切出てこなかったのです。これでは、作者の言いたいことが読者には伝わりません。

そこで、私は作者にダメ出しをしました。

すると、最終決定原稿(定型)では、次の二か所にちゃんと「本当の敵」という言葉を書き入れてくれましたよ。

「『この部屋は僕のもの、君は僕の敵だ!』 すると彼は鼻で笑った。『ふん、なーんにも分かっちゃいねえな。本当の敵は、もっとほかにいるんだよ、バーカ』」(定型33~36行目)

「(本当の敵って、あいつのことだったのか)」(定型77行目)

作品全体の真ん中あたりと、ラストあたりに2回、「本当の敵」という言葉がくり返し出てきますので、これで必ず読者の印象に残ります。
そして、読後にタイトルの言葉も見てもらえると…のべ3回目の追い打ち。

これで、「最も言いたいこと」が何かを、完全に読者へ伝えることが出来ますよ。

くり返しの言葉=「キーワード」
意味のくり返し=「キーセンテンス」

作者は「キーワード」や「キーセンテンス」という「くり返し」の表現を用いて、自分の最も言いたいことを読者に伝えていくようにしましょう。

④ 主人公の「変化」は「成長」である。

実は、この作品は私が教室で実施した「課題」から生まれました。
その課題とは――――
「とある建物の中に主人公がいて、そこへ誰かがやってくる」……このシチュエーションで作品を書いてみよう――――でした。

作者トシオさんは、ものの見事にクリアされましたね。

今作品のテーマは「僕」と「彼」の関係で、それを最終決定原稿(定型)から<立脚点>で見ていきましょう。

彼が僕に → 「出て行け」(定型16行目、20行目、24~25行目)。
僕も彼に強く言い返します → 「この部屋は僕のもの、君は僕の敵だ!」(同33行目)。

これで最初の間、二人の関係は<否定的>(仲が悪い、お互いが嫌い)です。

それが、このように進んでいきます。

彼が僕に → 「この家はおまえにやるよ。もうケンカはやめだ。」(同50~51行目)

作品全体の中頃で、二人は<否定的>でなくなります。つまり、関係が変化しました。
実は、こんな表現も作者は散りばめています。

彼が僕に……
「出口は自分で作るもんだ。ちぇつ、チビだから、まだそんなこともできねえのか」(同18~19行目)

  ↓

「『何だ、おまえ。一人前に穴ほれたじゃないか』 彼が寄ってきて、初めて僕を褒めてくれた。」(同45~46行目)

ここにも、彼が僕に対しての「評価」を変化させて<肯定的>になっていったことが描かれていたのです。

さらに作品全体を通して、主人公の大きな変化が、実は、ちゃんと書かれていますよ。

「『この部屋は僕のもの、君は僕の敵だ!』 すると彼は鼻で笑った。『ふん、なーんにも分かっちゃいねえな。本当の敵は、もっとほかにいるんだよ、バーカ』」(同33~36行目)

  ↓

「次の瞬間、黒い影は僕ではなく、彼をくわえて飛び去った。ほんの一瞬だが、彼と僕の目が合った。『なッ……』。彼が僕に、そう言ったような気がした。(本当の敵って、あいつのことだったのか)」(同73~77行目)

初め「本当の敵」を知らなかった僕が、ラストで、それに気付くよう表現されていますよね。それも、彼の犠牲(?)の上において。

ここでの、お互いが目を合わせるシーンは「同じ仲間=虫としての”宿命”を共有していることの確認」みたいな深い味わいがあります。

出来なかったことが、出来るようになる。それも、自分の意志で…。
知らなかった「真実」を、知る。それも、目の前の厳しい現実を通して…。

半人前 → 一人前へ。 未熟 → 成熟へ。この、主人公の二重の「変化」を、作者は巧みにストーリーにして描いています。

今作品は、主人公「僕」の成長物語であると言えますよ。

clipimg