コンテスト参加作品(19)
『ある探偵の物語』
モリタケ
 プルルルル……、プルルルル……。
 古びた雑居ビルの3階にある、散らかり放題の事務所の中に、電話の音が響きわたる。
 二日酔いで、ボロ雑巾のようにソファーに横たわっていた俺は、喘ぎながら電話に出た。
「は、はい、生津探偵事務所ですが」
 そう、俺は生津(なまづ)昭吾、いわゆる私立探偵だ。「えっ、子どもがいなくなった!?」
 このように日夜、警察の手には負えない事件に振り回されている。
「それで、探すのは? 2歳の、ペルシャ猫……。オスですね?」
 お察しの通り、事件といっても逃げたペットを探したり、浮気調査がほとんどなのだが。
 なぜかペット探し(特に猫)だけはうまい俺なんで、このコはすぐに見つけることができた。だが来月でもう35歳になるというのに、食っていくのが精一杯のありさまなので、ボチボチ転職も考えているんだよなぁ。

 という訳で今日も、2日前に依頼されたペットを探して、朝から町を歩き回っていた。 今回いなくなったのは、依頼主いわく、「カワいくて、とにかく人懐っこいコでね。すぐに、まとわりついてくるんだな。名前? 名前はアマンダちゃんだよ」ということだ。
 アマンダというのが、よく行くフィリピンパブの、俺が入れあげているチーママと同じ名前だとは、口にしないだけの分別はあった。
 探し歩いていると、いつの間にか夕方近くになっていることに気づく。今日はこの辺であきらめて、パブに飲みに行くか。あそこならアマンダはいるし、ツケも利くしな。
 そう思った矢先、薄闇の中で向うの豪邸に、それらしきヤツが入って行くのが見えた!
 あわてて目指す家まで駆けより、表札を見てインターホン越しに「田所さぁ〜ん」と呼びかけるが、全く反応がない。焦っていた俺は開いていた門から中に入り、玄関のドアを引くと、鍵もかかっていない。
 不審に思いながら玄関の中に入った途端、背中に硬いモノが付きつけられたのを感じた。
「静かにしろ。動くと刺すぞ」と背後から男の声がし、反射的に振り向こうとしたら、頭にガン! と一撃をくらう。
 遠くなる意識の中で、黒いカゲが家の中へスッと入って行くのを見た気がした……。

 気がつくと、俺は手足を縛られ、口もふさがれて床に転がされていた。
 隣には、おそらく家主の田所だろう、初老の男性が同じような状態で寝転がっている。
 どうやらここは寝室のようで、男がひとり、金庫に向かってゴソゴソしながら、「これが開いたら、二人とも殺してやるから待ってな」とつぶやいた。流行りのラーメン屋でさえ待つのが嫌いな俺は、必殺ナワ抜けで! と思ったが、そんなワザなどまったく知らない。
 せめて、若い女のコと一緒に死ぬならまだマシだったのになぁ、と隣の田所をにらむ。
 すると田所がフガフガともがくので、視線の先を見れば、ベッドの下の黒々とした生き物と目が合った。探していたアマンダだ!
 俺も一緒になってフガフガ言っていると、強盗のヤツが何事かとベッド下を覗きこむ。
 次の瞬間、体長5mはある巨大ヘビ(通称アマンダ・♀)が男の体に巻きつき、アッと言う間に気絶させてしまった。

 その後、四苦八苦しながらナワを解いた俺たちは、無事に警察へ男を引き渡したが、ヘビは依頼主が無届けで飼っていたことがバレ、あえなく没収されてしまった。
 怒り心頭の彼からは、もちろん頼りの報酬はもらえずじまいである。
 事務所に戻り、今度こそ本気で転職を考えようと求人雑誌を開いた時に、電話が鳴った。
「はい生津です。はぁ、子どもが消えたと?」
 俺は、ため息をひとつ吐くと、こう聞く。
「で、犬種と名前は?」                    
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