コンテスト参加作品(22)
『チケット』
ゆうな
 思わず見ていられなくなった月子は、窓辺に立ち、師走の月に向かって手を合わせた。
 十八歳になる修(おさむ)がひとり、炬燵でミカンを食べながらテレビを見ている。
「今年のピン芸人大賞は、シュートさんです」
 テレビから司会者の大きな声が響く。
「母さんの好きなシュートだよ。おめでとう」
「うん……」。月子は、嬉し涙を拭いて、炬燵に戻った。
「この大賞を取った芸人は、みんな来年、売れっ子になっていくんだよね」
「下積みが長かったから、本当に良かったわ」
「シュートって、何歳だっけ?」
「四十五よ。私より五歳上なの」
「あ、母さん。もうすぐ、誕生日だね。何かプレゼントするよ、何がいい」
 月子は大型書店でパートとして働き続け、ひとり息子を育てて来た。修は今、美容師の専門学校に行きながら、近くのコンビニでバイトをしてくれている。
「いいわよ、気持ちだけで。修が卒業して、就職したら高いプレゼント買って貰うから」

「母さん、誕生日おめでとう。中を見て!」
 年が明けて、帰宅した月子に修が声をかけてきた。見ると炬燵の上に封筒が置いてある。
「いいって言ったのに」。月子が、その封筒を開けると、春にある『シュート独演会』のチケットが入っていた。席も一番前である。
「やっぱり、人気が凄くて、これを取るのは大変だったんだ」
「修、ありがとう。でも……その日は棚卸がある頃で、仕事の休みが取れないと思うの」
「何で? パートの代わりはいないのかよ」
 不機嫌そうにアルバイトへ出て行った修の後ろ姿に、月子はゴメンと詫びた。

 テレビで桜の開花を伝えるニュースを見ながら月子と修が夕食を食べている時、アナウンサーが「今、入って来たニュースです」と口調を変えた。
「人気急上昇中のピン芸人・シュートさんが乗ったタクシーに大型トラックが衝突し、シュートさんは救急車で大阪市内の病院に運ばれましたが、重体とのことです」
 月子は箸を落とした。
「修、出かける用意をして!」
「えっ、今から俺、バイトだよ」
 月子は、そんな修に有無を言わせなかった。

 修を引っ張り、月子は病室の前に辿り着く。そこには、恰幅の良い男性が待っていた。
「月ちゃん、電話をありがとう」
「その節は、ご迷惑をお掛けしました」
「そんな昔のことはいいから、早く入って」
 月子が病室に飛び込むと、ベッドの上で幾つもの管につながれたシュートが寝ていた。
「シュート、シュート」。月子が叫んだ。
「月子か……」。シュートが目を見開いた。
「はい。いつも陰ながら応援をしていました」
シュートの目が月子の後ろにいる修を見た。
「もしかして?」
 月子は体を入れ替えて、修を前に出した。
「そう、あなたの子よ。本名の修斗の修をもらって、おさむ」
「……」。修は、初めて自分の父を知った。
「ふたりに会えて良かった。もっと生きて、三人で仲良くずっと暮らしたかった」
 そう言うと、シュートはガクッと首を垂らした。すぐに、月子がツッコむ。
「シュート、死んだ振りしてもアカンで!」
「ばれたぁ」。シュートが大きく目を開く。
「やっぱり、月子のツッコミ、最高や……」
 訳わからず、この成り行きを見ている修に、横から男性が耳元で囁いてきた。
「あれは昔のギャグだよ。僕の事務所に所属して、二人は漫才をやってたんだ。月子は君を妊娠して、この世界から足を洗った。今でこそ独身の修斗だけど、その時は、結婚していたからね」                                     
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