『オレオレボランティア』
汐人
「もしもし。こちら、桜島地熱発電プロジェクトの大岡と申しますが」
「へぇ? ……ああ……そうでごわんども、何ぞ用かいの」
「実は我々、鹿児島の桜島で地熱発電の事業を行おうとしております。ご存知のとおり、地熱発電は、地球温暖化防止のため、この先とても有望な投資先でございます。つきましては、薩摩おごじょでいらっしゃるあなたさまにも御投資いただけないかと思いまして」
「ふぅ~ん。何じゃら、怪しか話じゃね。この前も風力発電とやらで、よう似た詐欺話があったばっかりじゃろもん」
「いえいえ、我々のプロジェクトは、発電と同時に桜島の噴火もコントロールして、あの火山灰の被害をなくそうというものでもあるんですよ」
「煙たなびく桜島が鹿児島の名物たい。そんな馬鹿話にゃ乗らんけんね。その手は食わな
の桜島大根たい」
「さすが、おばあちゃん、太か! 惚けとらんじゃろか思とったばってん、心配なかね。ところで、おばあちゃん。ちと、頼まれ事ば引き受けてくれんじゃろか」
「気安うものば言いよるね。おぬしいったい誰ばい」
「何ば言いよる。わしじゃろ、わしわし。今度また、悪かおなごに入れあげてしもうて、美人局か何か知らんが、脅されとるんじゃ。ばあちゃん、わしがコンクリート詰めにされてもよかか。ほいで、二百万でええけん、銀行のATМで振り込んでくれんかの」
「たわけたこつ言いよるなぁ。ぐるりと見回しても、縁者にはそないな愚かもんはおらんこったい。それに孫の彦六じゃったら、おらがキャッシュカードみたいなもん持っとらんこつ知っとろうばいに」
「いやいや、感服いたしました。こちら、市の介護保険課でございます。実はご子息様から、あなたの介護認定の申請がございまして、軽い認知症で要介護2にならないかとのことでしたが、とてもとても。要支援にも該当しませんね。予算も限られておりますので、あなたのようなしっかりしたお年寄りがいてくださるのは、たいへん結構なことです」
「はぁ~、ここはどこかのう? わしゃ誰ばい? あんた、孫の彦六やなかったとね? ……あぁ、九州の言葉は難しいやおまへんか。もうアカン、わてギブアップするわ」
「なんや、おばあちゃん、コテコテやったんか。さすが大阪の、ええ乗りしとる」
「おおきに。何も出えへんけどね。あんたはんもご苦労なこっちゃ。わてとこんな無駄話しとったら、本業の方はどないなっとんねん」
「実はな、俺、もうオレオレやめよう思てるとこや。あんなん向かへんわ」
「そうか……」
「でも、お年寄りと話してるとな、ホラ話てわかってても聞いてくれる人、結構、多いねん。寂しいんやなぁ~と思てな。俺も、こんな嘘の話広げていくの自信あるし好きやねん。そやから、だましても、お金取らんとな、喜んでくれるとこで寸止めしといたらええやろ」
「そんなボランティアみたいなことしてて、あんた生活できんのかいな」
「そやからな、そういうええことすんねやさかい、NPОみたいなもんにして、寄付とか補助金で食うていけんかと考えて……手始めに、おばあちゃんに寄付してもらえんかな。たった二百万でええさかい、振り込んでぇな」
「ヨッシャ――って、あんたなあ」
「冗談や冗談。はな、おばあちゃん、また電話するさかいにな」
「もういらんで。わて、ちっとも寂しないし。それにあんたとはもうこれ以上、話する必要がなくなってん」
「何でや?」
「オレオレ逆探知ボランティアやってるんや。警察が、あんたの家へ到着するまでの時間稼ぎしとってんで。ほら、ドアを叩く音が……」
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