『河童のカンタロー』
原作 ひろわ / 執筆 みきを

 ある夏の日、おたねばあさんが洗濯をしようと川へ行くと、村の子どもたちが声をあげて、小石を川へ投げ込んでおった。
「こら、やめんかいっ」
 おたねさんは、とっさに大声を張りあげた。
「アイツが悪いけん。いたずらばっかりしよるから、懲らしめとるだけじゃ」
 子どもたちは口々に叫んで、逃げて行った。
 岩かげから、しくしくと泣く声が聞こえてくる。おたねさんが、そろりと近寄ってみると、子河童がしゃくりあげて泣いていた。
「おーい、大丈夫かぇ?」
 おたねさんが、優しく声をかけると、目を真っ赤に腫らした子河童が顔をあげた。
「おめぇさん、何ちゅう、名だ?」
「カンタロー」
「ええ名やな。おっかぁがつけてくれたんけ?」
「おっかぁは、死んでしもた。おら、独り」
「そらぁ、かわいそうになぁ」
「おらな、人間の子になりてぃ。みんなと、野山駆けまわって、遊んでみてぃ」
 カンタローはそういうと、ドボンと勢いよく水しぶきをあげて、川底に消えていった。

 村に冷たい風が吹く頃、おたねさんが川にとんと来なくなった。さすがにカンタローは心配になって、おたねさんの家を訪ねた。
「おたねばあさん、どないしたんけ?」
 すると奥の部屋から、細く小さな声がした。
「カンタロー、そろそろお別れぞ」
 おたねさんは、重い病で、床に伏していた。
「おたねばあさん、死んだらいけん。おらが助けちゃるで、待っててけろ」
 カンタローは、おかぁから聞いた話を思い出した。――この川の上流にな、たいそう有難い御神木がある。その根元から湧き出る水を飲むと、願いが叶うそうじゃ。ただし、一度きりじゃぞ――。
 カンタローは、意を決して川へ飛び込むと、流れに逆らって一生懸命に泳いだ。
 川幅はいよいよ細くなり、川面を覆うように茂った草木をぬっていくと、目の前に大きな木が姿を現した。傍に透き通るような青く輝く水が湧き出ている。
「あれだっ」
 カンタローは腰に巻いた竹筒にその水を注ぎ込むと、急いでおたねさんの家に戻った。
「おたねばあさん、これを飲んでけろ」
「それはなんぞな」
「願いの叶う水じゃ。元通り元気になれるように願いをこめて飲むんじゃぃ」
 おたねさんは、震える手で竹筒を持つ。
「……」
「ん、どうしてぃ?」
 その問いかけに、おたねさんはにっこりほほ笑んで、頭をさげた。
「カンタロー、あんがとさんやで。だけんじょ、ワシはもうええ。おめえが飲みなぁ。人間の子になりたいという願いがあったじゃろ」
「うっ」
 カンタローは、おたねさんを助けたい一心で水を汲んできたものの、その言葉に心がぐらついた。おたねさんの差し出す竹筒に、水かきのついた小さな手をゆっくりと伸ばした。「や、やっぱり、おらはええ!」
 カンタローは自分の願いを振り切り、竹筒をおたねさんの口に押し当て、水を流しいれた。おたねさんの喉からごくりという音が聞こえた。

 次の日の朝。布団から体を起こしたおたねさんの姿を見て、カンタローは驚いた。
「お、おたねばあさん、どういうことじゃ?」
「願いが、かのうたということじゃな」
 おたねさんの手のひらには水かきがあり、頭には丸い皿がのっかっている。
「カンタローのおっかぁになれますようにと、願うたんじゃ」

 それからというもの、母子の河童が仲良く川を泳ぐ姿が、ずっと見られたそうじゃ。
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