『ユー君』
かっちゃん
 毎日、学校が終わったら、おじいちゃんのおうちに行く。私は二年生。家にはおとうさんもおかあさんもお仕事でいない。
 おじいちゃんの家では、おばあちゃんは介護施設で働いていて、おじいちゃん一人がおふとんで寝ている。
 おじいちゃんは昔、鉄工所で働いていた。定年になってから家にいる。去年脳梗塞という病気になって、ふとんで寝るようになった。
 私は幼稚園の時から、園が終わるとこの家に来て、お母さんがお迎えに来るのを待つようになっている。
 おじいちゃんとは、この前まであまり話をしなかった。「お茶をくれ」とか「タバコ買ってきてくれ」とかの命令だけで、後はだまって将棋の本を読むだけだった。
 おじいちゃんは病気になってから、よく私と話をするようになった。寝ている頭の傍で宿題をしていると、よく話しかけてくる。
「ミッちゃんは二年生か。じいちゃんが二年生の時は……おおっそうだ。幽霊の話をしてあげよう。
 じいちゃんの小学校、横にテレビ局のアンテナが建っていたんだ。高さが七十メートルもある奴だ。学校で写生大会があり、じいちゃんは友達とアンテナを描いていた。そこへ若いニイチャンがニタニタ笑いながらアンテナを登っていったのだ。しばらくして、向こうの先にドスンと音がして、首が芝生にうもれ、逆立ちになった人が見えた。すぐに救急車がやって来て、テレビ局の職員さんたちとで足を引っ張った。ボコッと崩れた真っ赤な頭が出てきて穴は血で一杯だ。横にはかじりかけのりんごが転がっていた。
 その晩から血だらけの男がじいちゃんの枕元に座り込むようになった。「りんごが……」とつぶやく。じいちゃんは怖くてなぁ、お母さんの布団にもぐりこむようになったのだ。
 あれから五十年あまり、男はずっと夜になるとやって来るんだ。もう、慣れて怖くない。今では友達のように話している。ユー君って名前だ。いつまでも若いままだ。ミッちゃん、幽霊って怖いだろう」
 おじいちゃんは天井を見ながらフッフッフと笑う。
「ユー君は、ながいこと来ないなぁ」

 その晩から私の枕元に血だらけの男があらわれるようになった。「りんごが……」とつぶやいている。おじいちゃんが友達のようだ、といっていたからそんなに怖ろしくなかった。
 なんにちかたって、おじいちゃんに言った。
「このごろ、血だらけの男の人があらわれるのよ。おじいちゃんから話を聞いていたから、別に怖くはないけれど、眠るのに邪魔になるからかなわんわ」
 おじいちゃんは私の顔を見ながら言う。
「そうか、あいつはミッちゃんのところへいっていたのか。おじいちゃんのところへ行きなさいと、あいつに言ってくれ。それと、これ百二十円、ユー君は歯がないからりんごジュースをおごってやれ」

 あの夜からユー君はあらわれなくなった。
おじいちゃんにそのことを伝えると、おじいちゃんはうなずく。
「そうだろう。あいつはまた毎晩やってくるようになった。じいちゃんが病気だから遠慮してたのだという。あいつが来なかったら、寂しくてな。ばあちゃんに話せないことも、あいつには話せるからな」
「おじいちゃんとユー君さんは、本当のおともだちなのね」
「五十数年間も付き合ってきた。あいつが自殺したわけも聞いた。じいちゃんは困っていることがあると話した。あいつは翌日の競馬、当たり馬券を教えてくれ、助けてくれた」
「ユー君さんはいくつまでいきるの」
「知らん、幽霊の事なんか。じいちゃんが死んだら、あいつはどうするのだろうな」
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