『男たちの住民会議』
ララ
 ある秋の夜更け、同じ屋根の下に住む三人の男たちが集まり、話し合いが持たれていた。議題は、この屋敷の女主人の行動についてであった。

 まず、色白の太っちょな男が言った。
「ぼくが引きこもりがちになって家から出ないと、部屋の中をくまなく探して、引っ張り出すんだ。あの人にはプライバシーの感覚が全くないから困るよ」
 次に、鋭い目つきの痩せた男が話し出した。
「俺は新鮮な物しか口にしないんだ。なのに、いろんな食べ物を持ってきて、俺に食べさせようとする。まったくおせっかいで、迷惑な奴だ」
 二人は本当に迷惑だという表情を浮かべ、うなづきあった。
 すると、今度は、黒光りして不潔そうな男が小さい声で話した。
「あいつは俺たち家族のことが大嫌いで、必ず追いかけ回すんだ。逃げ遅れた俺の妻と娘は、とうとう殺されちまった。なんで俺たちがあいつに嫌われるのか、見当もつかねえ。お陰で俺は、天涯孤独の身だ」

「失礼しやす」
 突然、聞きなれない高い声がしたので、三人の男はびっくりした。声の方向に目をやると、出っ歯のずる賢そうな男が座っていた。
 男は次のように言った。
「びっくりさせちまって、申し訳ありやせん。壁の向こうから皆さんの話を聞いてたんですが、私も一言言わせてもらおうと、出てきたんであります」
 男は話を続けた。
「あっしは、女主人の上の階に住んでいるんですがね。ちょっと小走りで部屋の中を走っただけで、あいつは『出ていけ!』と叫びながら、天井をドンドンとつつきたおすんですよ。たまったもんじゃない」
 出っ歯のずる賢そうな男と黒光りして不潔そうな男は、許せないと言った表情をし、顔を見合わせた。
「やっぱりあの女主人の行動は理解できない」
 色白の太っちょな男がぽつりと言った。それを聞いていた出っ歯のずる賢そうな男は、女主人の部屋へ忍び込んだ時のことについて話し出した。

「色白の太っちょさん、あんたは女主人の世界では、『カブトムシの幼虫』と呼ばれている。カブトムシの幼虫は男の子たちに大人気だ。だから、あいつはタケシとケンタという孫たちが遊びに来た時、大きくなったあんたの姿を見せるために、土の中からあんたを掘り出すのさ。それから、鋭い目つきの痩せたあんたは、『カマキリ』と言うそうだ。あんたも人気者だから、死なせる訳にはいかない。女主人は生物辞典で調べた、カマキリのえさってやつをあんたにせっせと食べさせているのさ。色黒のあんたと俺は、ちょっといわくありでね、『ゴキブリ』『ネズミ』という名前だ。あんたと俺の体にはバイキンがついているって、人間の世界では考えられている。タケシとケンタの食べ物にバイキンが付いたら大変だ。あんたと俺を退治するために、あいつは躍起になっているのさ」
一呼吸おいて、出っ歯男はさらに続けた。
「俺たち生き物から見ると、理解できない行動も、人間の世界では正しい行動なんだ。あいつは、孫たちに生き物の命の尊さを教え、安全な物を食べさせようとしている。孫たちに惜しむことなく愛情を注ぎ、残り少ない余生を全うしようとしている。あいつは、俺たちとは生きている世界が違うけれど、俺たち同様、精いっぱいに生きているってことさ」

 次の瞬間、廊下の向こうからこちらへ向かってくる足音が聞こえた。カブトムシの幼虫は土の中へ、カマキリは草木の蔭へ、ゴキブリはタンスの後ろへ急いだ。そして、ネズミは小さな壁の穴から屋根裏へと戻って行った。
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