『異聞・一寸法師』
トシオ
「おっとう、おっかあ。おら、都へ行って、侍になる。心配しないで待っててけろ」
 一寸法師は、そう言って、針に麦わらのさやをつけた刀を腰にさし、お椀の舟に乗りこみました。見送りの声を背に、箸のかいをじょうずにあやつって、川を下っていきます。
 あとすこしで、都につくところで、嵐にみまわれました。お椀の舟はひっくりかえり、法師はおぼれて、気を失ってしまいます。
 気がつくと、酒盃の上に寝かされていました。都を荒らしまわっている鬼たちが、顔を覗きこんでいます。彼らに助けられたのです。
「おお、気がついたか。よかった、よかった。どうだ、俺たちの仲間にならないか」
 からだの大きな鬼の大将が言いました。
「いやだ。おらは、侍になりてえ」
 法師が首をふると、鬼の大将はしばらく考えている様子でしたが、やがて名案を思いついたようです。
「おまえはチビだから、そのままでは、侍になれない。しかし、俺の言うとおりにしたら、おまえを、侍になれる立派なからだを持った若者にしてやろう」
「侍になれるのなら、おら、なんでもします」
 法師は喜んで頷きました。
 鬼の大将は、都に住む人間の姫さまを、お嫁さんにしたいと思っています。
 そこで法師に、姫さまの遊び相手に雇ってもらい、上手くお伊勢参りに誘いだすように案をさずけました。お参りの途中で、姫さまをさらってしまおうと考えたのです。

 お屋敷には、姫さまが二人いました。一寸法師は、二人いることは知らされていません。しかし、鬼の大将が言う相手は、上の姫さまであろうことは、すぐに分かりました。
 上のきれいな姫さまには、たくさんの遊び相手がおります。しかし、美しくない下の姫さまには一人もいません。そこで、一寸法師は、下の姫さまの遊び相手に雇われました。
 ところが、下の姫さまは、ひどい『やんちゃ姫』だったのです。毎日、一寸法師をつまみ上げては籠に入れ、回り車に乗せてハツカネズミと一緒に走らせたりしました。  

 しばらくして、ようやく二人の姫さまを、お伊勢参りに連れだすことができました。
 都を遠くはなれ、山道にさしかかったときのことです。おだやかに晴れていた空が、にわかにかき曇り、鬼たちが襲ってきました。
「きゃー」
「たすけてえ」
 二人の姫さまは、叫んだあとに気を失い、倒れてしまいます。お供の者たちも、怖がって逃げていきます。
 やがて鬼の大将があらわれ、上の姫さまのそばに歩み寄ると、やさしく抱き上げました。そして、約束のものをそっと地面に置くと、法師に小声で告げます。
「打ち出の小づちを、ここに置いていくからな。よいか、教えたとおりに使うんだぞ」
 鬼たちがいなくなると、一寸法師は下の姫さまを起こしました。そして、上の姫さまがさらわれたことを告げたのち、目の前のものを指差して言いました。
「これは、鬼が落としていった打ち出の小づちに違いありません。これを振って願いごとをすると、ひとつだけですが望みが叶います」
「ひとつだけ?」
 姫さまがたずねます。
「そうです。小づちが大きすぎて、おらには振れません。おらに強い侍のからだをくれるよう、姫さまからお願いしてください」
 一寸法師が涙ぐんで頼むと、下の姫さまは、「わかりました。私がお願いしてあげます」と言って、小づちを大きく振り上げました。

 数か月が、あっという間に過ぎます。
 願いごとがかない、都で一番美しい姫になった『やんちゃ姫』は、お屋敷で、たくさんの男たちに囲まれて、笑い声をあげています。
 皆が見つめる先では、今でも小さいままの一寸法師が籠に入れられ、回り車の中でハツカネズミに追いまくられていました。          
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