『ひと目惚れ』
 ねえねえ、聞いて聞いて。
 私はヨーコに言う。彼女と私は幼なじみで、今日はヨーコの家でランチにあずかる日だ。
 ここに来る時のことなんだけどね。
 電車の座席がちょうど一人ぶん空いていたので座ると、横に並ぶことになった彼と目があったの。すっごいハンサムな人。
 すると、彼がね、私をじっと見つめてくるのよ。私はぽわーんと口を開けて見返したわ。
 ひと目惚れしたの。生まれて初めてのことよ。これまで一度だって、誰もそんな風に私を見つめてくれた男性っていなかったもん。
 私は生まれたときから、自分の器量が悪いことを知っているので、男の人に見つめられるなんて、そんなことが起きないよう、いつも異性を遠ざけてばかりいたの。
「ちょっとは、この私に似れば良かったのにねぇ」なんて、母は、わざと聞こえるように言うけれど、残念。あなたに似過ぎているからダメなのよ!
「それで、ハルカ。そのハンサム君に見つめられてどうしたのよ」
 ヨーコが話を戻す。
 どうって、彼がにっこり笑うものだから、私も微笑み返したわ。そしたら、彼はスッと手を差し伸べてくるの。えっ、と一瞬、躊躇したけれど私も勇気を出して、彼の手を握ったわ。柔らかくって、きれいな手。
 私の心臓がね、早鐘のように鳴りだしたの。
 電車の周りの乗客に聞こえるんじゃないかって慌てたわ。で、手を放して彼を見ないようにしたの。すると、今度は私の腕を触ってくるのよ。
「それって痴漢じゃない!」
 私は駄目よって、ちょっと怖い顔で睨んでやったの。それでも、彼ったらニッコリ笑って、声をかけてくれたわ。
「あぶあぶ」って。
「なあんだ……」
 そうよ、とてもハンサムな赤ん坊――。

 今のママさんたちは、おんぶ紐が身体の前に来る抱っこ式でしょう。彼のママはね、さっきからしっかりと私たちの成り行きを見ていたわ。
「ごめんなさいね、イタズラして。まだ六カ月なの。でも、この子がこんなことするなんて初めてだわ」
 母親って、もう赤ん坊の時からでも自分の息子の行動をチェックしているのね。どこの誰とも知れない女の子の誘惑にのったら駄目よ、なんて心配しているんだから。
 そのママはやがて電車の揺れで気持ちよさそうに居眠りを始めたのよ。
 私、その隙を見て、たまらずに……。
「ハルカ、あんた、何をしたのよ」
 ヨーコが膝を乗り出して私を見る。
 ハンサム君はね、じっと私を見続けていたわ。私は誰にも気づかれないように、私のこと好き? って彼に聞いたの。もちろん、テレパシーでね。彼は大きな瞳をいっぱいにして「大好きだよ」って答えてくれたわ。
 ほんとうよ。
 あぁ、お互いが、ひと目惚れだったのよ。
 感激したわ。私はジェスチャーでチュッとして見せたの。私のファーストキスよ。
「うらやましぃ~。ハルカと、その赤ん坊はね、きっと前世で深い仲だったのよ」
「えっ、ヨーコも、そう思う? 幸せ~」
 その時、駅に着いたの。降りなきゃ。
「またきっと、どこかで巡りあおうね」 
 私は母におんぶ紐で抱っこされたまま、彼にバイバイと手を振ったのよ。
 
「さぁ、ランチにしましょう」
 ヨーコのママが料理をテーブルに運んできた。手伝いながら、私の母が声をかける。
「ヨーコちゃんとハルカ。一歳の女の子同士で楽しそうね。何をお話していたの?」、
 ねえ、ヨーコ。私たちのガールズトークは内緒よ。
「もちろんよ、ハルカ」
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