『エノラ・ゲイの祈り』
まり
 私の住む星は大小いくつもの島々から成っています。私は一番大きい島であるエノラ・ゲイ島の古城のガイドをしています。海に向かって立つこの城は、昔は要塞でしたが、今は歴史の証人として、一般公開されています。
 今日は、ようこそいらっしゃいました。

 ご存知の通り、この沖合に小さな真珠の形をした島があります。海を挟んだ向う側のアキツ島との中間点に位置しますので、人口過密に悩むアキツ島から、その真珠島へ移り住む人たちが出始めました。それを我が警備部隊が強制的に退去させると、怒ったアキツ島の軍隊が夜の闇に紛れて奇襲攻撃を仕掛けてきました。我が軍は多大な被害を受けました。
 しかし、このことで私たちは、アキツ島の本土を攻撃しても良いという大義名分を得たのです。実は、その時、非常な破壊力を持つ新しい爆弾の製造に成功していました。我がエノラ・ゲイ島の支配者は、これを実際に使用し、効果を見たくてなりません。他の島々の連中に、この爆弾の威力を見せつけ、自分達に服従させたいという欲望があったのです。 

 この城には、爆弾開発の研究室や実験場がありました。要塞だったので、入り組んだ複雑な構造は、秘密裡に進めるのに最適でした。
 ついに、ある夜、古城の敷地に特命を受けた飛行機が用意されました。新型爆弾を搭載し、この島の名前を与えられた「エノラ・ゲイ号」です。出撃の直前、招かれていた一人の牧師が天に向かって祈りを捧げました。

  全能の父よ、われらの祈りを聞き給え。
  今よりあなたの天空に果敢に飛び立ち、
  敵に一撃を与えんとする、これらの者と
  あなたが共にいてくださるように。
  その飛行を護衛し、あなたの力でこれらの
  乗員を、戦争に速やかな終止符を打つ者に
  させてください。

 作戦は成功しました。新型爆弾はアキツ島の上空で炸裂し、数百万度という超高温の火球となりました。強烈な熱線、爆風、そして放射能が島全体を覆います。アキツ島の指導者は、あっけなく無条件降伏をしました。

 エノラ・ゲイ島の人々は、飲んで歌って、跳ねて飛んでの大騒ぎという戦勝気分に酔い痴れます。ある祝賀パーティでは、生クリームでキノコ雲をかたどった大きなケーキが会場を飾りました。
 それを見た一人の男性は顔色を変えて突進し、ケーキを粉々にして叫びます。
「みんな、このキノコ雲の下で、なにが起きたか、想像できないのか。焼け爛れた人々の死体が折り重なり地上を埋め尽くした。赤ん坊にさえ容赦しなかったのだぞ。罪を知れ!」
 あの時の牧師でした。でも、クリームだらけになった彼がそう叫んだところで、まともに聞く人はいません。一層、笑い転げました。
「甘いねえ」
 牧師への冷やかしも聞こえてきます。取り成すように誰かが言いました。
「いや、いや、牧師さん。あなたのお祈りのおかげで、島の人々の心がひとつになったのだから。このたびの一番の功労者は、軍人、科学者、政治家ではなく、宗教家のあなただ」
 牧師は無言で、その場を立ち去りました。

 時を経て、この星の覇権を握ったエノラ・ゲイ島の支配者一族も、ここから去りました。
 この星は小さい。おまけに、想定外の放射能に汚染されている。宇宙の彼方に「地球」というすばらしい星があるそうだが、あの爆弾の威力を持ってすれば、簡単に支配できそうだ――そう考え、一族みんな、大型ロケットで出発しました。ほどなく謎の空中分解を遂げましたが……きっと、仲間割れしたのでしょう。なにせ、欲の深い連中でしたから。

 残された、この星の人々は、アキツ島の悲劇・惨劇に祈りを捧げ、お互いの島を行き来して除染に取り組みました。小さい星では、すべての島々が協力し合い「ひとつ」になる大切さを、我々は苦い教訓から学んだのです。

 ああ、はい。私は、あの牧師の子孫です。
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