『コンビ』
かりん
「ちょっと、桜さん。早う咲き過ぎちがう?」
「あら、梅さん。私は寒緋桜と申しまして、あなたと同じ頃に咲きますのよ」
「何もこんな早うから咲かんでも、その時が来たら国民的行事で、みんなに見てもろうて喜んでもらえるやないの」
「それはソメイヨシノですわ。私のような桜は早目にそーっと咲かせていただきますのよ」
「せめて私ら、梅が咲いてる間くらいは咲かんといてほしいわぁ」
「まあ、そんなに目くじら立てないで」
「立てますがな。だいたい万葉集の詠まれた頃は、花と言えば『梅』やったのに、いつのまにか『花は桜、山は富士、酒は白雪』になってしもうて、気ぃ悪い」
「でも、『梅に鶯』って言いますわよ」
「ああ、そやねぇ。『松に鶴、紅葉に鹿、竹に虎』と続くけど、桜は出てこないねぇ。それに、梅酒はあるけど桜酒はないしぃ。ふふふ」
「それを言うなら、桜餅はあるけれど、梅餅はありませんからね」
「くやしーっ。でも、梅肉は梅の実やけど、桜肉は桜の実のことやのうて、馬のお肉のことやんか。悲しいわなぁ」
「桜の実はサクランボで可愛いけれど、梅雨と言うと、『鬱陶しい』の代名詞ですよね」
「ふん、商売で『サクラ』言うたら、まわし者のことやんか」
「あなた、口が減らないわね」
「それは、あんたもや」

「まあ、梅さん。あなたは控えめがお似合いですよ。地味でも寒さの中で凛と咲くからこそ、『梅一輪 一輪ほどの 暖かさ』と歌人に詠まれるんです」
「それで、桜さん。自分はどうやて言うのん?」
「絢爛豪華に咲いてもすぐ散ってしまうから、惜しまれて『世の中に たえて桜のなかりせば 春の心は のどけからまし』と詠まれるんです」
「そうやって、学のあるとこ見せるんやねぇ。目立ちたがりの、あんたらしいわぁ」
「ところで、『桜伐る馬鹿 梅伐らぬ馬鹿』って言いますけど、知ってますよね」
「またわざわざ、私がわからんようなむずかしいことをきくんやねぇ」
「そんなつもりはありませんよ。梅のあなたは枝を切られて成長するけれど、桜の私は切らないのが良いという大切な教えなのです」
「ふーん。ああ、それで私はすっきりして
るけど、あんたはずんぐりしてるんやねぇ。あ~ぁ、言うてスッキリした」
 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
古いアパートの部屋に九十歳の老婆が二人。日がな一日、昔の漫才のテープが流れている。
コンビを組んで七十年。『梅と桜』は、一世を風靡した漫才コンビで、今も二人は助け合って暮らしている。

「梅ちゃん、ご飯食べましょうよ」
「いややわぁ、桜ちゃん、さっき食べたやないの」
「あら、そうだった?」
「桜ちゃん、散ってるねぇ」
「それはもう、桜ですもの、潔く散りますわ。それが私の美しくも悲しい宿命です」
「そんなええもんやないで。散ってるのは、あんたの頭。記憶が飛んで散ってるんよ」
「あら、梅ちゃん。あなたに言われたくないわ。それはそうと、あなた。いつからお風呂に入ってないの? 臭ってるわよ」
「そら、私は梅ですもん、香りが命。匂ってなんぼですわ」
「いい香りなら匂うでしょうけど、臭いのよ」
「えーっ、臭い? おかしいわぁ? 今二人で、お風呂から出たばっかりやないの」
「あ、そうだったわね」
「そうやよ。それで、今からご飯食べようよ」
「いややわぁ、さっき食べたやないの」
二人は永遠のコンビです……。
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