『三宅さん。好きです。』
智恵蔵
今日こそ告白するのだ。
 悟は強く誓った。もうすぐ三十歳。生まれ
て初めての愛の告白だ。
 相手は、五十二歳の三宅さん。
 脂がのりにのった独身の中年男性だ。年齢
差は二十以上ある。しかも男同士。でも愛が
あれば……。悟はようやく決断したのだ。叶
わぬ恋だとしても、この気持ち、伝えずには
いられない。
 三宅さんとは、アイドルグループ「とんか
つ娘」のイベント会場で知り合った。三宅さ
んは、ファンのまとめ役であり、頼れる上司
のような存在でもある。悟は本来、アイドル
に興味はない。というより、女に興味がない。
女より男が好きだ。そんな自分の趣味を母親
に隠すため、いわば隠れ蓑として始めたのが
アイドルの追っかけだった。
 ところが、そのアイドルのイベント会場で
三宅さんと何度も顔を合わせるうちに、その
懐の広さと愛情の深さに惹かれるようになっ
た。幼いころに亡くした父親の理想像を重ね
合わせているのかもしれない。とにかく今は
三宅さんと同じ時間、同じ思いを共有するた
めに、とんかつ娘を応援している。
 そして今日は、とんかつ娘の解散コンサー
トだ。解散すると、コンサートはもちろん、
関連イベントがすべてなくなる。ファンが、
どこかに集まることもない。すなわち、三宅
さんと会う機会がなくなってしまうのだ。
告白するなら今日しかない。
 コンサートは盛り上がった。
 三宅さんは、とんかつ娘の最後のステージ
に、力の限り声援を送り、男泣きした。五十
歳を越えた男がアイドルのコンサートで泣く。
なんてピュアなハートの持ち主なのだろう。
悟はますます三宅さんが好きになる。帰り道、
思い切って悟は三宅さんに声をかけた。
「三宅さん。大切な話があります」
「偶然だな。オレも悟に話がある」
 二人は、イベントの帰りによく立ち寄るメ
イドカフェに入った。

「実はだな……」
 先に話しはじめたのは、三宅さんだった。
「悟。お前、オレのことどう思う? 好きか?」
 悟は意表を突かれ、言葉を失った。自分の
気持ちを伝えるつもりが、逆に気持ちを問わ
れるとは。悟は背筋を伸ばした。よし。今だ。
「もちろん、す、好きです。大好きです!」
 渾身の告白だった。三宅さんは頷く。
「そうか。ありがとう。悟。実は、お前に告
白することがある」「は、はい」
 三宅さんの表情は真剣そのもの。頭をテー
ブルにこすりつけて懇願してくる。
「頼む、悟。オレの息子になってくれないか。
ゆかりさんと結婚したいんだ!」
 ちょっと待った。なんで母さんなんだ?
 三宅さんの説明では、母さんとはアイドル
グッズの専門店で知り合ったらしい。悟への
誕生日プレゼントを探していた母さんは、店
長の三宅さんにアドバイスを求めた。そして、
追っかけに明け暮れる一人息子のことを相談
した。話し込むうちに、仲良くなって……。
ちょっと待った。ボクの告白はどうなる?
「ゆかりさんとのこと、隠していて済まん」
 三宅さんは、再び頭を下げて謝罪する。ど
こまでも真っ直ぐな人なのだ。ますます好き
になってしまうじゃないか。と、その瞬間、
悟の鼻から熱いものが溢れ出た。
「悟、大丈夫か?」
 三宅さんは、取り出したティッシュで悟の
鼻血をぬぐう。そして、隣の席に移動して、
ふらつく悟の上体を逞しい腕で支えた。
 ゴクッ。悟は熱いものを飲み下す。鉄のよ
うな苦い味がした。これが失恋の味?
 まあいいか。恋人が父親でも。三人暮らし
の中で独り、禁断の愛を育んでいこう。
「母さんのこと、よろしく……」
 悟は三宅さんの腕の中で大きく頷いた。
(ヨコ20字×80行=1600字)
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