「4枚小説」作品『僕が死神を見た日』  


『僕が死神を見た日』
モリタケ
 僕が花束を抱えてその病室に入った時、見

知らぬ男がベッドの横に立っていた。

 男は、寝ている彼女の顔を上から覗き込む

ようにして、じっと見ている。

 彼女がひとりで寝ているものだと思ってい

た僕は驚き、慌てて部屋から出て行こうとす

ると、彼が顔もあげずに声をかけてきた。

「私が見えるのかい?」

 そう言われた僕は、足を止めてもう一度そ

の男を見てみる。黒づくめの服装で、今まで

に会ったこともない人物だった。

「もちろん、見えますが」と、意味が分から

ぬまま、彼の問いに僕は答える。

「そうなんだ、珍しいね」

「どうしてですか?」。僕は続けて、「失礼

ですが、あなたは?」と聞く。

 そこで男は初めて顔をあげ、僕を見た。蒼

白だが端正な顔立ちで、年齢は僕より上とも

下とも思える。そして彼は、こう答えた。

「私は『死神』だよ。まあ、君たちの世界の

言葉で言うと、だけどね」



 しばらく呆然とし、男の言ったことの意味

を考えていた僕は、不思議なことだがすでに

それを信じていた。普段から霊感などがある

わけでもない。理由は分からないが、男の超

然とした佇まいや、はるか遠くから響いてく

るような、独特な声のせいだろうか。

「鎌、そう鎌は持っていないんですね?」

 死神、と名乗った男に僕は尋ねた。

「鎌? ああ、君たちの絵にはよく、大鎌を

持ったドクロの姿が描かれてるね。でも、私

はあんなのを持ったことはないなぁ」

「彼女は」と僕は、ベッドの上に青白い顔で

横たわっている女性に目を向ける。

「彼女は、もう長くないんですか?」

「どうなんだろうね。実は、私にはそういっ

たことは全く分からないんだよ。ただ、君た

ちのいるこの世界から旅立つのを見送るのだ

けが、あくまで私の役目なんだ」

「あなたが現われてから、どれくらいで人は

死んでいくのですか?」

「そうだなあ、君らの時間で言えば、早けれ

ばその日のうちか、遅くても三日くらいだろ

うか。色々だね」

 僕は男の言葉を聞きながら、彼女をじっと

見つめていた。

「つかぬことを聞くようだけど」と、死神。

「この女性は君にとって、どんな存在だった

のかな?」

 僕はしばらく考え、ようやく答えた。

「彼女は」。そして、急に心の中に沸きおこ

った怒りとともに叫ぶ。

「彼女はとても大切な、いや、僕のすべてと

言ってもいい女性だったんだ! だけど……」

 次の言葉を放とうとした瞬間、心臓を鷲づ

かみにされたような激痛が走った。

 遠のく意識の中、男が微笑むのを見た気が

し、ようやくすべてを悟った。

 あぁそうか、死ぬのは僕だったのか――。



「君も来てたんだね」

 少し前に現れ、床に倒れた若者のそばに立

つ別の死神に、男は話しかけた。

「ああ、急に呼ばれてな」

「君が見送った彼は、いったい何者なんだ?」

「コイツは、その女のストーカーでな。冷た

くされた腹いせに刃物で刺して重症を負わせ、

死ななかったと知って、もう一度、襲いにこ

こまで来たんだ」

 見ると、花束に隠されていたナイフが床に

転がっている。

「ただコイツも、心臓に持病があったのさ」

「……」。無言のまま若者に目をやる男に、

仲間の死神が声をかける。「じゃあ、オレは

もう行くが、お前はその女の担当なんだろ?」

「そうなんだ。私はもう少し待っているよ」

 後から来た仲間が去ったあとの病室に、今

は男だけが残り、ベッドで眠る女性を静かに

見つめていた……。



(ヨコ1行20字×80行=1600字)

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